彼の腕にしがみつく女子高生。
子犬を連れてさっそうと歩く家族づれ。
そして、一人改札前で呆然としている女子大生。
何を隠そう、これが「ドタキャンされ子」暦21年のわたしだ。
LINEで陽気に「ごめん!急に仕事入っちゃった!」と陽気なスタンプを送ってきた彼に
いましがた中指の写真を送って一息ついたところだった。
「帰ろっかな……」
改札むこうの電光掲示板を見ると、次の電車まで10分。
なんだか喉も渇いたし、このまま帰るのもしゃくだな……。
そう思っていると、すぐ近くから女の人の声が。
「よかったら、飲んで行きませんか? ベトナムコーヒー、おいしいんですよ」
そういっておねえさんが出してくれたのは、なんとも不思議な形のカップ。
「コンデンスミルクを底にいれて、ちょっとずつ淹れるんです」
意気揚々と話す彼女の笑顔につられて、つい350円をさしだしてしまう。
「2分くらいお待ち下さい!」
2分。電車来ちゃうんじゃないかな。
と思っていると、カウンターの端にどかんとおいてあるビンに目がとまった。
つぼにパンパンにはいったピクルス。
よく見るとバーベキューみたいに串に野菜が刺さっていて、食べ歩き使用。
ついニヤニヤしてみていると、お姉さんが逆側のカウンターを指差す。
目線をうつすと、そこには透明な袋に入った、ジュースが。
「江ノ島って散策してると、飲み物のゴミとかかさばっちゃうんですよね。
だから、うちは『貝殻とかいれて使ってください』って言って、お土産袋として
ジュースのコップをあえてビニール袋にしてるんです」
そういえば、どこかの国で牛乳を袋に入れて売る国もあったような……。
それにしてもカラフルなジュースが入ると、なんだかかわいい。
コーヒーじゃなくてこっちでもよかったかな、と思ったけど、
ドタキャンの思い出が残るのも、ちょっとね……。
そんなこんなで、コーヒー完成。
「コンデンスミルクは混ぜないで飲むと、最初は苦く、そのあと激甘になって面白いんですよ」
コーヒーを面白いと言ってしまうあなたが「面白い」です、と思いながらひとくち。
ほのかにコンデンスミルクの香りがついた、優しい味。
小さい声で「おいしい」とつぶやくと、
「お姉さんが10人目のお客さんなんです。うち、まだできたばっかりなんですよ」と、
軒先のお祝いの花をゆびさしてはにかんだ。
今日来れなかったあいつに、「くれば綺麗なお姉さんと話せたのに」と言ってやろう。
そう思いながらコーヒーを一気に飲み干した。
甘っ。面白い。