能楽は650年以上前から続いており、歌舞伎や文楽の先輩格の日本古来の伝統芸能です。
能楽は、謡(歌のこと)と舞(能楽では「踊り」とは言いません)が入ったミュージカル。
しかも神様に捧げるミュージカルなんです。
その先鋭的な表現方法は世界的にも評価が高く、ユネスコの無形文化遺産にも指定されています。
能面を着けて1曲演じるのは本当に大変なことなのですが、素人や初心者も演じることを楽しめるようにと仕舞(クライマックスの抜粋)や素謡(歌のみ)といった取り組みやすいものもあるので、お稽古ごととしてはみなさんが考えるよりもずっと習いやすいんです。
650年前からある神様に捧げるミュージカルを習うって、それだけでも十分に面白そうでしょう?
能舞台を観てみると、まずは大きな松の絵には圧倒されます。この壁を鏡板と言います。
不思議なことに舞台の四隅に柱が立っています。「目付柱」「ワキ柱」「笛柱」「シテ柱」とそれぞれ名前があるんです。普通の舞台だったらこんな柱はないんですが、もともと能楽は野外で行われていたということもありつつ、能面を着けて視野が極端に狭くなった能楽師はこれらの柱を目標にして舞台の上を動くのです。この柱があるおかげで、能楽師は舞台から落ちなくてすむんです。
三間四方(約6メートル)のシンプルな正方形の舞台。狭いようで広い舞台。神様が観ている神聖な舞台。能楽師がいるだけで、能舞台はもう小宇宙。海、山、宮中、戦場等々、あっと言う間にワープしちゃうわけです。
この神聖な能舞台に上がるためには、必ず白い足袋をはくのがお約束です。
粟谷先生は初心者向けの教室を定期的に開催しているんです。
教室のコミュニケーションはFacebookを通じて行われており、SNS経由で分からないことを気軽に先生に質問することもできますし、急用で稽古をお休みするときの連絡もメッセンジャーでOK。粟谷先生は能楽師の中で一番SNSを活用されている方なのではないかと思います。
勿論、現役バリバリで、沢山の舞台を勤めていらっしゃいます。舞台の上ではいつもキレキレで、先生の舞台を観る度に惚れ惚れしちゃいます。
プロフィールはこちらから。
扇にもきちんとした握り方がありまして、扇が肩から下にあるときと肩から下にあるときだと握り方がちょっと変わります。そのため腕を動かしたときに、扇の握り方をうまく変えていくような動きが出てきますが、これにはちょっと慣れが必要です。上手にできるかどうかは別にして、初心者でもちょっと練習すれば一通りはできるようになります。
構え、すり足、扇等々が滑らかになって、上手に動けるようになると俄然楽しくなってきます。
また、能の型(動き)には劇中での文脈の中でそれぞれに意味があるので、どんな意味なのか理解しながら舞うとより美しく舞えますし、多面的な能の面白さがより見えてくるような気がします。
粟谷先生の初心者教室では1回1時間半の稽古4回で1曲の仕舞を習います。今回は初心者の方も一緒に参加しました。
具体的な曲に入る前に、まずは基本の中の基本、構え、すり足、扇子の持ち方を教わります。洋服だと分かりにくいのですが、能装束を着けたときにキレイに見えるように肘を少し張るのが構えのポイント。能舞台の上では基本的にはすべてすり足で歩くので、すり足の練習も欠かせません。すり足をきれいにキメるためには、膝と足首を少しだけ曲げて重心を少し前にかけ、一歩踏み出す度に少し爪先をすっと上げ、そしてすっと下げるのです。
普段やらないような動きが色々と出てきますので、自分の身体の使われていないところが目覚めていくというか、自分の身体と対話しながら舞っていくと、インナーマッスルが激しく稼働しているのがよく分かります。下手な筋トレよりも体幹や足腰にすごく効いて、健康になれそうな気がしてくるから不思議です。
基本的なところを一通りできるようになると実際に曲を習います。今回習うのは「草紙洗小町」という曲の仕舞(クライマックスの抜粋版)。仕舞は地謡(コーラス隊のことです)の謡に合わせて、型を付けていきます。教室では、型だけではなく同時に謡の方も練習してきます。
粟谷先生の丁寧なご指導もあり、少しずつですが、確実に上達していくのが自分でも分かります。粟谷先生から「できた!」「よし!」という一声がかかると本当に嬉しくなってしまいます。
「草紙洗小町」は絶世の美女小野小町が主役のお話です。
小野小町と大伴黒主が歌合せで対決することになったが、黒主がズルをして小町の家に忍び込み、歌合せ用の小町の歌を盗み聞きしたのです。黒主は小町の歌を「それは昔の人が作った古い歌だから、小町はインチキだ」と非難し、昔の歌集にあるぞと主張します。確かに歌集を見てみると小町の作った歌が載ってる! 小町は自分の無実を主張すべくその歌集(草紙)を洗わせてくれと言います。実際に人々の前で小町が歌集を洗うと、あら不思議! 小町の歌は消えてしまいます。インチキが発覚した黒主は自害しようとしましたが、お互い歌を読み合う仲間じゃないのということで、小町は黒主の自害を諌め、自らの疑いが晴れたことで喜びの舞を舞うのです。
今回の仕舞は、最後に小町が喜びの舞を舞うところ。
ちなみに小野小町が主人公になる曲は他にもいくつかあって、「小町物」と呼ばれています。
粟谷先生の教室では能面をつけることもできます。能面は小さな動きや角度によって喜怒哀楽を表現することができます。能面に表情の変化はないはずなのに、先生が能面をつけてちょっと顔の角度を変えるだけで、喜怒哀楽が能面に浮かんでくるのが不思議です。
能面を着けると視界は非常に狭くなるので、舞台で舞うのはそう簡単ではありません。初心者にはとてもできませんが、能面を着けてみて、その視野の狭さを是非体験してみてください。能楽師がいかに凄いのかということがよ〜く分かります。
小鼓(こつづみ)も体験できます。
打楽器は上から叩くものですが、これは唯一下から叩くもの。叩く強さや鼓の革を締めている調べ緒を締めることで音色を変えて演奏します。打ち分けた音は「チ」「タ」「プ」「ポ」という擬音化した言葉、唱歌(しょうが)で表します。
こちらもぜひ体験してみてください。最初はなかなかいい音がでませんが、「ぽん」とか「かん」という乾いた音が出せたら最高の気分です。
2020年東京オリンピックもせまってきており、そのときは外国人旅行客も増えることですし、日本文化のひとつも知らなければ恥ずかしいと思いません?
ぜひ一度体験してみてはいかがですか?
たった4回では1曲を完全に仕上げるというわけにはいきませんが、何度も繰り返すうちに少しずつ上達していきます。この達成感がたまらなくいいんです。
稽古の後にみんなで飲み会をしています。先生のお話はとても面白く、引き込まれます。興が乗れば稽古時間の2倍以上もみんなで飲んで、能楽だけではなく色々な話をして盛り上がっています。
これも続いている理由のひとつでもあります。