美術愛好家で岡山に幅広い人脈をお持ちである岩根宏行さん。
1971年山陽放送にアナウンサーとして入社され、長年、放送の世界でパーソナリティとしても活躍されてきました。
金重陶陽ら、国際的にも成功したアーティストを誇る、岡山の文化や芸術を本格的に支えるべく、2013年にこのギャラリーをオープンされました。
アンクル岩根のギャラリーの展示暦を見てもわかるとおり、
さまざまなジャンルのアーティストの中でも、「備前」の作家さんの展覧会がたくさん実施されます。
筆者は、気鋭の備前の現代陶芸作家、澁田寿昭さんの個展におじゃましました。
澁田寿明さんは、備前焼の現代作家。
美大で工業デザインを学んだのち、備前焼の伝統工芸士に師事し、窯元に陶工として就職します。
この段階では、いわゆる伝統工芸としてのやきもの(茶碗や酒器など。あるいは実用性の高いもの)を焼く職人でした。
しかし、窯元勤務中に、自分の表現としての芸術作品を作り、自主的に個展を開くなど試みをはじめます。
今では、海外のマーケットでもその作品を売られるようなアーティストとなられました。
また、フランスで備前の伝統的な窖窯(あながま)を築窯して焼き物を焼くアートプロジェクトを実施したり、
パリで開催されたジャポニスム2018で備前のやきものの美をレクチャーするなど、
備前焼というものの価値を常に考え、広い文脈で共有する活動をなさっています。
備前焼の特徴は、釉薬を使わない無釉焼き締め技法を用いた陶器であること。
白磁や青磁、色とりどり釉薬を用いた陶器と違って、土のテクスチャだけで表現する世界です。
つまり、窯の中の自然の作用で起こる「窯変」が全てを決めます。
窯詰めの位置や、煙に当たる方向の違いで色や風味に違いが出たり、焦げや灰がくっついてただれたることで装飾がかかったりするのです。
また、焼く前の素材の段階からデザインは始まっています。
すなわち、素材である土を、砂や岩の配合、粒の荒さを計算してデザインする土作りから製作を始めるのです。
その微妙でかすかな表情が、わびさび・枯れ冷えの風情を体現するとして桃山時代に茶陶として愛されました。
そのような古陶の性格を、しっかり受け継いでいるのが現代備前の特徴でもあります。
現代陶芸の作品には、一般的に陶芸といって思い浮かべる形とは大きくことなる表現がたくさんあります。
絵画のようなものも、彫刻のようなものも、もっと巨大なモニュメントのようなものもあります。
澁田さんの今回の個展には、石のようなオブジェ、そして壁面の作品が印象的でした!
澁田さんは、職人でありアーティストでもあります。実用性も持ちうる酒器や茶碗も焼かれています。
その中にも、少し新しい趣向を凝らした、瑠璃備前や銀備前といった作品も。
筆者の一押しは、こちらのタブロー。
この壁面、なんと、小さい土の塊を一から少しずつ並べて四角い形を作っています。
つまり、この表面は、なんとなく自然にデコボコに「なった」ように見せかけて、このブロックのような形成方法で意図的に作られたデコボコなんです。
土の割れ目も、敢えて焼き上げたときに、ここで割れるように小石を入れ込んでいる。「不作為の作為」が澁田さんが体現する備前焼の美なのです。
まったく現代美術的な表現でありながら、土作りと、土の成形、そして焼成に関する職人の伝統知を活用する、
これが日本の現代陶芸の中でも地域の伝統に重心を置く、備前の魅力です。
さらに、3番目の作品は、そのようにせっかくデコボコに作ったタブローの表面を「平らにならした」作品。
トンボがけをしたような、筋が見えるでしょうか?
平らに均したといっても、その下地に、コツコツ積み上げた土のデコボコがあるので微かな傾斜や隆起の違いが生じる。
普通の練った土を平らにした状態とは違い真っ平らにはならないんです。
「この一見平らに見える土のタブローの裏にある膨大な積み重ねを、日本人は読むことができる」と澁田さんは鑑賞者に期待します。
岡山駅から車でおよそ15分、新しい店も増えつつあるらしい問屋町でランチをいただきます!!
ボリュームしっかりのステーキランチで1500円。
地元の方も集まりでよく使われるという、寛いだ雰囲気のお店ですが、
お食事はしっかり本格的な洋食という感じでした。
デザートのコーヒーゼリーも美味しくいただきました。
いよいよ備前焼の作品が作られる窯元を訪れます…!(続く)