芸能人もお忍びで通う、たこやき有名店。
そんなものには興味はない。
私は関西で育ち、「たこやきは買うものではない、作るものだ」と教育を受けてきた。
そんな私にとってお金を払ってたこやきを買うのは何か気がひける思いがある。
しかし現在東京という大都会に1人で住む私の家にはホットプレートもたこ焼き器もない。
東京に来てはや数年。たこ焼きの味を忘れかけている関西人。それが私だ。
「もんじゃ焼き食べたいなぁ」
と口にする相方。
もんじゃ焼きは好かん。
あれはただのゲ×だ。
見た目の品の無さ、味の微妙さ、食べた感じの得られなさ、満点最下位だ。
そんなものを食べるくらいならばと、
「めっちゃおいしいたこ焼き屋さんあんねん!」
と久しぶりに関西弁を使って相方の興味をどうにかたこ焼きに移す。
「芸能人もお忍びで通っているらしいし!」
無論、出任せである。
ただもんじゃ焼きから逃げるための嘘だ。
説得に成功した私は気づく。
ここは東京、本場ではないこの土地で芸能人が通うほどのたこ焼き店があるのか。
リサーチ&リサーチでやっと見つけたのがここ天風。
バナナマン日村勇紀さん、ケンドーコバヤシさん、摩天楼アントニーと、微妙なラインナップだが致し方あるまい。
ケンコバが認めるならそれはモノホンだろう。
当日、訪れてみるとすでに人がいっぱいいっぱい。
コアタイムを外しているのにこんなに人がいるなんて、予想以上である。
無類の塩好きである私は相方に聞くこともなく、
塩オリーブを頼む。
「う、うまい」
関西の町並みが瞼の裏側に浮かぶ。
我に返るとたこやきは相方の口の中にすべて消えてしまっていた。
「もんじゃ焼きより、おいしない?」
私は相方にそう尋ねた。
(完)